kugi's notebook

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猫目石のレンダリング - Chatoyancy -

はじめに

こちらの記事は レイトレ合宿9アドベントカレンダー9週目の記事です。

今回は宝石のレンダリング、その中でも猫目石(キャッツアイ)、タイガーアイなどで見られる光学現象について紹介します。

猫目石

猫目石は宝石の一種でキャッツアイとも呼ばれています。 その名の通り、光の反射によって現れる猫の目のような模様が特徴的です。

また、パワーストーンであるタイガーアイでも同様の模様を観測できます。

猫目石 - Wikipedia

タイガーアイとは|鉱物データ・特徴・意味・効果・石言葉 - ヒカリカンパニー公式WEBショップ

数年前にふらっと旅先で寄ったアクセセリーショップで猫目石タイガーアイを購入しました。 実際にはもっと高価なはずなので、厳密には猫目石ではないと思います。

ただ今回は便宜上、猫目石と呼ばせてください。

猫目石(左)とタイガーアイ(右)

猫目石の方は綺麗な線の模様が、タイガーアイの方も直線ではないですが光の筋のような模様が現れています。

Chatoyancy(シャトヤンシー効果)

猫目石などでみられる模様は Chatoyancy (シャトヤンシー効果) と呼ばれています。

では、シャトヤンシー効果はどのように現れるでしょうか?

調べていると、"Rendering gems with aterism or chatoyancy" 1 という論文に辿り着きました。

論文ではシャトヤンシー効果は猫目石の以下の2つの特性によるものと書かれています。

Inclusion (インクルージョン)とは鉱物が形成される過程で内部に取り込まれた、空気、水分、他の微小結晶などの内包物です。

インクルージョン (鉱物) - Wikipedia

また、Cabochon Cut (カボション・カット) とは宝石のカット法の一種で、 ダイヤモンドなどでみられるファセット・カットと異なり、曲面になるように研磨加工するものです。

カボション・カット - Wikipedia

猫目石の構造の概略

実際に猫目石を天井のシーリングライトに向けてかざしならが見てみると内部のインクルージョンを観測することができました。

猫目石を透かして観測できたインクルージョン

斑点模様のように見えているのが筒状のインクルージョンを軸方向に見たものです。 一定の間隔をあけて筒状のインクルージョンが平行に並んでいることがわかります。

シャトヤンシー効果の原理

シャトヤンシー効果の原理は以下のようになっています。

  1. 入射光が鉱石の表面で屈折し内部に進む
  2. 屈折光がインクルージョンで反射する
  3. 反射した光が鉱石の表面で再度屈折し外部に出る
  4. 3.で出射した光が最終的に集まり、光の筋として表面に現れる

光がインクルージョンで反射する様子

照明環境を変えて撮影した様子

照明環境を変えて撮影

猫目石タイガーアイに対して異なる照明環境下で撮影を行ってみました。

まず1枚目をよく見ると猫目石の方には模様が2つ出ているように見えます。 また、2枚目のiPhoneのバックライトのみの方ではタイガーアイに模様が出ていません。

そして、1枚目の模様は2枚目と3枚目の模様が合成されているように見えます。

照明環境を変えてみることで実際にインクルージョンと照らされる方向によってシャトヤンシー効果の違いが現れることがわかりました。

また、私の持っているタイガーアイの模様が真っ直ぐではないのも内部のインクルージョンの並びが均一でないからかもしれません。

猫目石レンダリング

それでは猫目石レンダリングについてみていきます。

インクルージョンのモデル化

Yokoiら1の手法ではインクルージョン表面のマイクロファセット(微小平面)のほとんどがインクルージョンの軸方向 Zに対して直交する方向に分布していると仮定し以下のようにモデル化しています。

インクルージョンにおけるマイクロファセットの方向

  •  Z: インクルージョンの軸方向
  •  \psi(S): 方向  S に分布するマイクロファセットの割合
  •  \phi: 方向  Z と 方向  S のなす角
  •  \theta:  \frac{\pi}{2} - \phi
  •  n: ラフネス

方向  S に分布するマイクロファセットの割合  \psi(S) については、 以下のように  cos^{n}\theta に比例するとしています。 ( aについては言及がありませんでしたが、インクルージョンの半径ととらえました)

 \displaystyle
\psi(S) = a cos^{n}\theta

内部の微小ボリュームにおける散乱

次に鉱石の内部に任意の方向に並んだインクルージョンが分布していいる微小ボリュームがあると考えます。

内部の微小ボリューム

  •  V: 視線方向
  •  V': 点  Q で屈折される以前の方向
  •  L: 光の入射方向
  •  L': 入射光の屈折方向
  •  H:  V' L'のハーフベクトル

微小ボリューム内のインクルージョンによって散乱された光は V'方向に進みます。 この散乱光は屈折を考慮した光の入射方向 L', 屈折以前の視線方向 V'のハーフベクトルの方向に分布するマイクロファセットの割合 \psi(H)に依存するとしています。

シャトヤンシー効果のモデル化

上記を踏まえ、シャトヤンシー効果は以下のようにモデル化されます。

 \displaystyle
T = rR + (1 - r) F e^{-c l_o} + I'
 \displaystyle
I' = \int_L (1 - r)(1 - r')I k\psi(H) e^{-c(g(l) + l)}dl
  •  T: 視線方向への出射光
  •  r: 点  Q における反射係数
  •  R: 点  Q における入射光
  •  F: 点  U における入射光
  •  c: インクルージョンでの散乱を考慮した鉱石内部の吸収係数
  •  I': インクルージョンでの散乱光
  •  1 - r': 点  Q' における透過係数
  •  k: インクルージョン内に分布するマイクロファセットの反射係数
  •  \psi(H): ハーフベクトル H方向に分布するマイクロファセットの割合

光源から視点までの経路

 T の第1項 rRは点 Qにおける反射光、 第2項 (1 - r) F e^{-c l_o}は減衰を考慮した経路 UQ間の透過光です。 これらに対し、インクルージョンでの散乱光  I' を加算しています。

 I'は経路UQ間に存在する微小ボリューム内で散乱した光について積分を行なっています。

Yokoiら1の手法では、 I'積分計算のために事前計算されたRay Distribution Map(レイ分布マップ)を用いています。

レイ分布マップは鉱石内に入射するレイを光源から一定の間隔でサンプルして飛ばし、鉱石と交差した点 Q'、屈折方向 L'、レイの透過係数 1-r'を保存します。 なお、2回目以降の屈折に関しては影響が小さいため無視されています。

まとめ

今回は猫目石でみられる光学現象であるシャトヤンシー効果(Chatoyancy)について、Yokoiら1の手法を参考に学びました。

今回は触れませんでしたが、論文のタイトルにもある Asterism(スター効果) も原理としてはシャトヤンシー効果と一緒のようでした。 インクルージョンが綺麗に3方向に入っていると、星のような模様が現れるようです。

何気なく購入した石の構造やそれに伴う光学現象について学べてとても面白かったです。

実際に実装までは至りませんでしたが、また空いた時間で描画までできたらなと思います。

また、猫目石以外の鉱石についての論文2やスライド資料3も見つけたのでそちらにも目を通したいです。

(スライド資料3に関してはエストニアにあるタルトゥ大学で行われているグラフィックスに関するセミナーの資料のようでした。)